平成二十一年の初詣 (――空白を埋めるための後付け短説) 西山 正義 わが家では初詣に毎年異なるところにお参 りに行っているのだが、今年は高校生の娘の リクエストで原宿に近いところということに なった。そうなると真っ先に思い浮かぶのは もちろん明治神宮であるが、明治神宮に元旦 に行くものではない。原宿といえばもう一ヶ 所、わが家的には著名だが、一般的には穴場 の東郷神社にお参りすることにした。 元日の原宿なんて十九のとき以来だ。十二 時ちょっと過ぎに着いた。願朝参りのピーク は過ぎていたが、竹下通りは大混雑。 東郷神社は、言わずと知れた日露戦争時の 聯合艦隊司令長官、元帥海軍大将・東郷平八 郎の命を祀った神社である。 社殿正面の手前に茅の輪があった。説明板 などはなかった。みな単に跨いで潜っている だけだが、作法があったはずだ。右からだっ たか左からだったか。前の老夫婦が左から回 った。たしか足も揃えるのだ。正面でお辞儀 をし、左足から跨いで茅の輪をくぐり、輪っ かの左側を通って正面へ、またお辞儀をし、 右足で跨いで茅の輪をくぐり、輪っかの右側 を通って正面に戻る。また頭を下げ、もう一 度左を回って戻ってくる。正面で深くお辞儀 し、拝殿へ進む。家族四人でぞろぞろ連なっ てやっていると、注目を集めてしまった。 娘に「勝札」、息子に「勝守」を求めた。 勝札の「勝」の文字は東郷元帥の直筆だそう だ。勝守には例のZ旗がかたどられている。 かつて「新嘗を祝ふ集ひ」の会場としても お世話になった水交社前の庭園をそぞろ歩き、 再び原宿の喧噪の中へ。 娘と妻は、それが本来の目的とばかりに買 い物へ。息子と私はクレープだけ食べて、渋 谷を経由しバスで帰宅。ひと息ついて、近所 の空き地でキャッチボール初めをする。
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ブログ:平成21年(2009)1月2日(金)~1:46
短説化:令和3年(2021)5月5日(水)12:45~15:00
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