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2021年5月 8日 (土)

短説「葡萄の季節に堀内幸枝さんから」西山正義

  葡萄の季節に堀内幸枝さんから
   
(――空白を埋めるための後付け短説)
            
西山 正義

 詩人の堀内幸枝さんから手紙が来た。
 氏からの連絡は、いつも突然でびっくりさ
せられる。ちょうど、私の師で、堀内作品を
高く評価した一人である文芸評論家の小川和
佑先生が亡くなって、この九月二〇日で満一
年を迎えるところであったから。
 そのことともあながち関係がないわけでは
ないのだが、直接には別の用件で、今回はな
んと原稿依頼であった。
「ただ今『葡萄』最終号をつくっております
が」とあり、そこに載せる原稿をということ
なのだが、さりげなく書かれている《最終号》
という言葉にハッとなった。
 堀内幸枝さんが長年主宰している詩誌『葡
萄』は、書肆ユリイカの伊達得夫氏が色紙を
切り抜いて作った装丁で、昭和二九年に創刊
されたのだった。時に幸枝さん三四歳。そし
て平成二七年現在九五歳。誕生日は九月六日
で、という
ことは、九五歳の誕生日の二日後
にお手紙をいただいたわけだ。
 久しぶりに依頼された原稿を書いた。手紙
が届いた一〇日に二枚書き、今日三枚に仕上
げて、夕方には郵便局の本局から速達で出し
た。平成五年秋、甲州一之蔵での堀内幸枝文
学紀行をテーマとした小川ゼミの合宿のこと。
小川和佑先生への供養にもなったような気が
する。私のその原稿では、あたかも小川先生
が今も健在であるかのように描かれている。
もちろん堀内幸枝さんも。いや、堀内さんは
正真正銘ご健在で、だから、最終行は現在形
で締めくくっている。
 堀内さんのお手紙は、とても九五歳とは思
えない、実にしっかりとした律儀そうな楷書
の筆跡で、それは、十代のころせっせと『四
季』に詩を投稿していたころから全く変わっ
ていないのだと思う。


ブログ:平成27年(2015)9月12日(土)~23:15
短説化:令和3年(2021)5月7日(金)24:10~24:50

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