短説「息子夫婦と娘に(僕の遺言)」
息子夫婦と娘に(僕の遺言) 西山 正義 ・ 令和五年の元日、昨年結婚した息子夫婦が 京都から年始に来た。息子は年末から帰省し ていて、お嫁さんとは大晦日に横浜で落ち合 い、汽笛ボォーの除夜から元旦にかけては横 浜で過ごし、昼すぎにわが家へ到着した。 それに合わせて、息子の姉にあたる娘も着 ていた。娘はすぐ近くに住んでいる。こちら も既婚だが、旦那はいろいろ訳ありで年始に は来ない。いや、うちより先に娘が旦那の実 家に年始に行くべきなのだが、旦那の母親が 感染症病棟の看護師ゆえ、新型コロナ以降そ の息子すら一度も会いに行けていないのだ。 たぶん一番そわそわしていたのは私であろ う。なんとなれば、息子の伴侶は高校の同級 生でもう十年も前から知っているのだが、私 たち夫婦の大のお気に入りだからである。 元野球部で勉強の方はあまりできない息子 には過ぎたお嫁さんで、たいへん優秀な子な のである。そもそも私の母校でもある高校に 入学した動機が、図書館が気に入ったからと いうのだから。そして、平安文学が研究した くて、東京の出であるがあえて京都女子大学 に進学し、さらに大学院に進み研究を続けて いる。そんな彼女に合わせて息子の方が関西 に転職し、京都で結婚生活に入ったのだった。 もしかしたら普通の家庭ではあまり歓迎さ れないお嫁さんかもしれないが、そこはわが 家なのだ。私も妻も結局のところ文学の仕事 はできないで終わりそうだが、一つだけ少し は誇れるものに『日本文芸鑑賞事典』第二〇 巻(昭和六三年・ぎょうせい刊)の原稿があ る。私は本文を書いたとはいえ二作品で、妻 は巻末の「名句名言集」の小文のみであるが、 錚々たる近代文学の先生方と同列に執筆者一 覧に氏名が載っているのだ。この元日、その 本を息子夫婦と娘に伝えることができた。 |
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