文化・芸術

2020年9月26日 (土)

小川和佑先生の『近代日本の宗教と文学者』から

 文芸評論家で近代文学研究家の小川和佑先生の七回忌のご命日も過ぎました。奥様から法要が無事済んだというご連絡をいただきました。
 その九月二十日前後、先に制作した小川和佑ゼミナールOB会誌『小川のせせらぎ』第2号に掲載した「小川和佑先生著書目録」第二回に続くべく第三回用の原稿を、いくつかすでに同ブログにアップ開始しました。
 それで、『近代日本の宗教と文学者』を読み返したのですが、これは元はNHKラジオの放送であるので、その放送を録音したカセットテープのアナログ音源をデジタル化しようと思い立ちました。いやもっと以前にやろうと思っていたのですが、先生がお亡くなりになって、生のお声を聴くのが辛くてなかなかできなかったのです。
 これはNHKラジオ第二放送の「NHK文化セミナー」のシリーズで放送されたラジオ講座で、平成7年(1995)年の2月5日から2月26日までの毎週日曜日の午後20時から一時間、全四回放送されたました。

『近代日本の宗教と文学者』(1995年)
第一回(2月05日):明治キリスト教徒文学者
第二回(2月12日):漂流する神を求めて
第三回(2月19日):信仰と革命の思想
第四回(2月26日):美しい日本に詩と真実を求めて

 NHKだから当然CMはなく、時報に続いてすぐに、テーマソングに乗せてアナウンサーによるごく簡単な番組と講師の紹介があり、終りも同様。その時間が前後一分程度で、途中に休憩もないので、講義は正味58分あります。
 もちろん生放送ではなく、1月12日から毎週木曜日に南青山のNHK放送センターで収録されたよし。
 今にして思えば、この放送時期です。すなわち、阪神淡路大震災の直後から、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こる直前までの、間ということになります。近代日本の宗教や神の問題を考えるには、あまりにもタイムリーだったと言わねばならないでしょう。
 個人的には、放送のちょうど中間の2月15日に、私たち夫婦の第二子である長男が生まれています。
 まあそれはそれとして、当時先生は65歳で、まだまだ若々しいお声で、ほとんどよどみなくマイクの前で講義されています。実にうまいというほかありません。多少のアドリブも入っているようですが、そのまま本にしてもいいような完全な原稿を用意して講義しているので、事実、その放送原稿をほぼそのまま活かして加筆されて単行本になっています。
 それが、翌年出た『近代日本の宗教と文学者』(平成8年2月・経林書房刊)です。私などが言うのもなんですが、見事な論評です。放送をダビングするのに聞きながら本を読んでいると、さらになるほどと思います。そしていろいろな思いに駆られます。

 そして、本書に導かれ、
・ラフカディオ・ハーンの『Kwaidan』(すなわち小泉八雲の『怪談』――岩波文庫版は息子に京都に持っていかれたので、新たに文字の大きくなった新潮文庫版を数日前に購入)
・和辻哲郎の懐かしい古典的名著『古寺巡礼』(岩波文庫)
・亀井勝一郎の『大和古寺風物誌』(これも文字が大きくなった新潮文庫の新版を昨日買い直しました)
・堀辰雄の『大和路・信濃路』(文字の小さい昔の新潮文庫)

 をここ数日読み直しています。この時生まれた息子がもう25になり、現在、京都に在住です。仏像や仏閣を観たくなりました。

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2020年1月 8日 (水)

令和2年(2020)に『地獄の黙示録』を再見して

 映画『地獄の黙示録』を見た。今さっきの話である。NHKのBSプレミアムで。言わずと知れたベトナム戦争を素材にしたフランシス・フォード・コッポラ監督の戦争映画の傑作(というか怪作といった方がいいかもしれない)である。
 その〈REDUX〉版。すなわち、2001年に53分間の未公開シーンが追加された『地獄の黙示録 特別完全版』である。もちろんこれは邦題で、原題は“Apocalypse Now”の〈Redux〉である。
 北米で初公開されたのは1979年の奇しくも8月15日。日本では昭和55年(1980)2月23日に公開された。僕が最初に見たのはそのロードショーであるから、17歳になる少し前で、高校1年から2年になる前の春休みである。
 昭和54年から55年といえば、僕が生涯のなかで最もへんてこりんな時期で、一番ぶっ飛んでいたころでもあり、何よりも暇さえあればギターを抱えていて、変な詩を書いては、曲作りとバンド活動に熱中していたころだ。
 当時の高校生はハード・ロックに夢中で、少し変わったところではプログレ派があり、一方ではフォーク派もいたのだが、世にはすでにパンク・ロックも出現していたころだ。僕はパンク系ではストラングラーズにはまっていたが、一番好きだったのは、当時少し廃れた感のあった60年代のロックであった。すなわち第一にビートルズがきて、第二にローリング・ストーンズがきて、キンクス、ザ・フーなどなど、そしてアメリカのバンドでは、なんといってもドアーズが大好きであった。その流れでストラングラーズというわけであるのだが、そしてこの映画、ドアーズの「ジ・エンド」が大々的にフューチャーされていて、「ジ・エンド」で始まり「ジ・エンド」で終わるわけで、すでにその前年の16歳のときにこの曲に衝撃を受けていた僕としては、この映画を見逃すわけはないのであった。
 さらに、川をさかのぼる最初の方のシーンで、ラジオのリクエストという設定でローリング・ストーンズの「サティスファクション」がノリノリでかかり、慰問で来た「プレイメイト」のバニーガールのお姐さんが挑発的なダンスを踊るシーンでは「スージーQ」が
生バンドで演奏されるのである。それだけで大興奮である。
 もう一つ音楽が効果的に使われているのは、これはたしか映画の宣伝でも印象的に使われていたと思うが、ヘリコプター部隊が爆撃するシーンでかけるワグナーの「ワルキューレの騎行」であろう。これには、三島由紀夫がからんでくる。後年知ったところによれば、コッポラ監督の妻エレノアの回想録によると、コッポラは撮影中よく三島由紀夫の『豊饒の海』を手に取っては構想を膨らませたという。ここでも、またしてもミシマである。
 今見ると、「ワルキューレの騎行」をオープンリールでけるあたりが時代を感じさせるわけだが、この映画では音楽や文学作品がいたるところで細かくメタファーに使われている。
 高校生の時、映画館の大スクリーンで見て、その映像の迫力に圧倒され、これは問題作だとは思ったが、正直に言えば、よく分からなかった、というのが素直な感想である。そりゃあそうだろう、ベトナム戦争のことなどよく知らないのだから。それでも、まだ僕ぐらいの年代までは、ベトナム戦というものがすぐ近くで起こっていたということぐらいは知っていた。しかもその雰囲気を多少なりとも“肌で”感じていたおそらく最後の世代であろう。
 以来、テレビでやるたびに、たぶんすべて見ていると思う。調べてみると、以下の通り。
・日本テレビ『水曜ロードショー』1982年3月31日
・テレビ朝日『日曜洋画劇場』1984年6月3日
・テレビ東京『木曜洋画劇場』1989年4月6日
 見るたびに、少しは分かった気になるが、本当に理解しているのかモヤモヤ感はなお残っていた。今回の〈REDUX〉版(特別完全版)は初めて見たかもしれない。(今回放送されたものは、2015年8月14日と2016年4月1日にNHK-BSプレミアムで放映されたものの再放送であろう)。日本初公開から40年、16歳の少年も56歳のオジサンになった。なんだかやっと少しはクリアになったような気がした。しかし、これは壮大な深刻ぶった「マンガ」のような気がしないでもない。
 だが、それにしてもだ。21世紀も20年近く過ぎた2020年になった現在でも、アメリカは(いやアメリカだけでなく)これと同じようなことを中東でやっているという驚愕の事実! そして、もはや日本も対岸の火事ではないのである。
 空爆って、空襲を受けた側からすれば、どう考えたって、ありえねぇだろうに、それが今この現在でも行われているというのはもう悪夢としか言いようがないし、狂気そのものだ。それがカーサ大佐が最後に呟く「恐怖」ということなのだが、文学的修辞ということでは済まされないことなのである。……

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2018年12月28日 (金)

歌舞伎の世界展

歌舞伎の世界展 西武池袋本店・7階(南)催事場に来ています。

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2018年11月24日 (土)

ルソーの『孤独な散歩者の夢想』を読みはじめる

 ジャン=ジャック・ルソーの『孤独な散歩者の夢想』を読みはじめた。こんな世界的な古典の名著を五十五歳になって初めて読むのである。
 娘の部屋にあったのだ。青柳瑞穂氏訳の新潮文庫が。それを見つけて、ちょっと手に取ってみて、これは今読むべきものだと直観したのだった。それは正しかった。まったくの偶然で、たまたまに過ぎないのだが、本の方から必然的に目の前に現れたような幸運な出会いというものがある。読書の醍醐味であるが、そうした出会い方で出会えたときというのは、不思議なことにいつも間違いなく、何ものかをもたらす質の高い読書になるのである。
 十五歳の夏に、これもたまたまタイトルに惹かれて読んだ二冊の本がきっかけとなり、突然読書に目覚めた。以降、中学の終わりから高校時代にかけて、僕のバイブルになったのが新潮文庫の解説目録である。(岩波文庫や講談社学術文庫、社会思想社の現代教養文庫などに目が向くようになったのはもう少しあとで、高校の終わりころからである)。
 今でも持っているのだが、一九七八年版の新潮文庫の解説目録は、ほとんど〝愛読書〟といってもよく、読むべき本にその重要度に応じて☆だの◎だの○だのといくつかの記号を使い分けて印をつけ、読了すると蛍光ペンでマーキングしていた。
 そのリストに、当然のことながらジャン=ジャック・ルソーの『孤独な散歩者の夢想』も含まれていた。当時の認識では、ルソーといえば、トマス・ホッブズやジョン・ロックなどと並ぶ、哲学や思想といってもどちらかというと政治学的、社会学的な方面の哲学者、思想家という認識しかなく、いや、十五歳のときはそれすらなく、(そういう認識を得るのは高校で世界史や政治経済の教科書でその名前に接してからであろう)、おそらくこれもまたそのタイトルとほんの短い解説文に惹かれて印をつけていたのであろう。
 しかし、四十年間、実際に手に取って読むことなく今日に至ってしまったわけだが、これはむしろ正解だったかもしれない。
 この書のタイトルはフランス語の原題そのままで、付け足しも省略もないが、より内容に即した恣意的なタイトルをつけるとするなら『年老いた孤独な散歩者の夢想』とでもすべきものである。〈孤独な散歩者〉というところに魅力を感じたわけで、それに〈年老いた〉とか〈老年の〉とかあるいは〈中年過ぎの〉とかいった形容詞がついていたらどうだったであろう。
 四十年間読まずにいたわけだが、むしろ良かったと思う。この書は、五十歳を過ぎて読まないと、実感としては理解できないであろうから。

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2018年8月18日 (土)

歌舞伎座の緞帳と提灯

歌舞伎座の緞帳と提灯
歌舞伎座百三十年
八月納涼歌舞伎
第三部
『通し狂言 盟三五大切』
開幕前

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2018年4月 2日 (月)

歌舞伎座

歌舞伎座

四月大歌舞伎(昼の部)
一、西郷と勝
二、通し狂言 裏表先代萩
を観てきました。
(写真は入場前に撮ったもの。退場後にアップ)

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2016年6月 9日 (木)

歌舞伎座

歌舞伎座

現在の五代目歌舞伎座でありやんす。
この六月大歌舞伎は『義経千本桜』(三部構成)。
歌舞伎座が新しくなってから初めて入りましたとさ。

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2011年9月 7日 (水)

草原の輝き……

 もう二ヶ月以上前の六月下旬のことだが、BSでサスペンス・ドラマの再放送を観た。西村京太郎の十津川警部シリーズだ。タイトルは忘れてしまった。
 テレビの十津川警部は、初代の三橋達也を皮切りに、単発物も含めると実に十六人の俳優が演じている(というのは今調べて知った)のだが、それは、私が一番馴染みのあるTBS系の十津川警部=渡瀬恒彦、亀さん=伊東四朗ではなく、テレビ朝日系の十津川=高橋英樹、亀さん=愛川欽也の方だ。
 もちろんトラベル物なのだが、どこが舞台だったかも忘れてしまった。ともかく、犯人は十津川警部の大学ボート部の友人なのだが、その友人が愛唱していたワーズワースの詩句が最後に効果的に使われている。
 ぶっちゃけ、それに泣けてしまった。ドラマ自体は、しごく常套的なサスペンスで、二時間枠のお決まりの作りなのだが、十津川が最後に犯人の友人に向かって言うその詩句にぐっときてしまったのだ。

草の輝くとき 花美しく咲くとき たとえそれが還らずとも 嘆くなかれ

 これは、イギリスの湖水地方をこよなく愛したロマン派の詩人、William Wordsworth (1770-1850)の有名な詩の一節だが、十津川警部とその大学時代の友人がこの詩を愛唱していたというのは、むしろ60年代初頭アメリカの青春映画の秀作『草原の輝き』の影響ではないだろうか。
 原題「Splendor in the Grass」は、そもそもワーズワーズのこの詩をモチーフにしたウィリアム・インジの原作をエリア・カザンが映画化したものである。主演はナタリー・ウッドとウォーレン・ビーティ。1961年11月封切り。
草原の輝き 花の栄光 ふたたび それは還らずとも 嘆くことなかれ
その奥に秘められし 力を見出すべし

Though nothing can bring back the hour of splendor in the grass, of glory in the flower, we will grieve not.
Rather find strength in what remains behind.


 この映画は、日本でも村上春樹をはじめある世代の人には相当な影響を与えたようである。またアメリカ人もこのイギリスの詩が好きなようで、ロバート・レッドフォード監督の「A river runs through it」(1992)でも、父と子がこの詩を交互に朗読する。
 この十津川警部ドラマでは、「その奥に秘められし 力を見出すべし」の部分は語られないのだが、私には十分だった。
「嘆くなかれ」と敢えて言っているのだがら、やはり嘆かずにはいられないということだ。「草の輝くとき、花美しく咲くとき」、嗚呼、それはやはり二度と還らないことなのだ。

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2008年1月14日 (月)

北斎を観に行く

Pa0_0003 今日は三島由紀夫の誕生日である。生誕八十三年。それとは関係ないのだが、江戸東京博物館に北斎展を観に行った。江戸博には、昨年の二月にも短説東京座会の探題会で来ている。その時は江戸城展。
 北斎の多彩な仕事ぶりをほぼ網羅した特別展のほかに、常設展でも「北斎漫画展」が開催されている。葛飾北斎といえば冨嶽三十六景などその作品を見たことがないという人はいないだろうが、今回、版画の制作過程なども窺い知ることができ興味深かった。
 絵師、彫師、刷り師の共同作業で作り上げていく版画。「チーム北斎」は今ならさしずめスタジオ・ジブリみたいなものであろう。しかしその作業はすべて手仕事。よくもまあ彫れると思う。浮世絵に限らず、常設展に江戸時代の木版本の制作過程が展示されているのだが、すごい技術である。今なら何でもコンピュータ。いにしえの日本人の細かい技術は、今でもそれなりに受け継がれているといえなくもない部分もあるが、生身の手を使った技術力という点では、やはり考え直さなければいけないものがあるだろう。

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2007年6月13日 (水)

三康図書館

こんな図書館があったのを今まで知らないでいました。
財団法人で運営されている、珍しい私立の図書館です。
場所は、芝・増上寺の真裏で、東京タワーの手前というか真下。
先日増上寺に行ったのですが、その時は知りませんでした。
今もネットの検索に引っかかってきたのでその存在を知ったので、
実際にはまだ行ったことはありません。

なにが驚いたかというと、同人雑誌が多数収蔵されているようなのです。
それも近代文学館にあるような、文学史上有名なものではなく、
現在発行中の、要するに僕らが出しているようなものを多く。
『短説』はもちろん、『日&月』や水南森さんの『夜の博物館』までありましたが、
抜けている巻もあり、僕はここには寄贈した覚えがないので、
一体誰がどこからどうやって集めたんだろうか。

蔵書を検索してみると

短説 短説の会 我孫子 短説の会
69号(H3(1991)-71号,73号,75号,81号-83号,85号-86号,88号-89号
93号(H5(1993)-99号,101号,106号-107号,115号-116号,118号-120号,122号,
124号(H7(1995).11)-125号,128号,130号,133号(H8(1996).8)-136号,
140号(H9(1997).3)-142号,146号-149号,151号-157号,160号,162号,164号-165号
168号(H11(1999).7),170号,174号,176号-178号,181号,186号,188号-189号,
191号(H13(2001).6),196号-201号,204号,206号-218号,221号-224号,243号-244号,
246号(H18(2005).3)-248号(H18(2005).5)
請求記号:3N-8-2
別誌名:The tansetsu

海とユリ 海とユリ社 東京 海とユリ社
10号(S51(1976).4)-12号(S53(1978).3)終刊
請求記号:3N-9-3
冠称:詩と短編小説

秘夢 グループ・ヒム 東京 グループ・ヒム
8(S47(1972).4)終刊
請求記号:3M-13-1
冠称:詩と散文

日&月 西山正義 水南森 調布 西山正義 水南森
2号(H8(1996).7)-3号(H9(1997).3),5号(H10(1998).5)
請求記号:3M-13-2
別誌名:Hi to Tsuki

夜の博物館 水南森 流山 水南森
2号(H8(1996).4)
請求記号:3M-13-2
別誌名:『日&月』別冊水南森幻想短説集2号

「堕天使」や「江南文学」などはありませんでした。
さすがに百花繚乱の詩誌はあまり揃っていないようですが、
一度行ってみる価値あり。

財団法人三康文化研究所附属 三康図書館 (さんこうとしょかん) 〒105-0011 東京都港区芝公園4-7-4 明照会館1F  TEL:03-3431-6073 FAX:03-3431-6082  開館時間:9:30~17:00 (入館、貸出、コピー受付:16:30まで)  休館日:土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始、夏季図書整理期間  ◆ 入館資格 16才以上 ◆ 入館料 1回:100円 / 回数券(6枚綴:500円、13枚綴:1,000円) ◆ 座席数 34席

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