短説「息子が三十歳」
息子が三十歳 ――人生最後の目標(2025.2.12) 西山 正義 ・ あと三日で、息子が三十になる。下の子で ある。上の娘とともに、短説にずっと書いて きた、あの息子が、である。 阪神淡路大震災の翌月、地下鉄サリン事件 が起こる前の月、つまりその間の月に生まれ た。一姫二太郎ということで、わが家初の男 子。そして結果的には唯一の男子。すなわち 嫡男。最初は女の子がほしかったが、二人目 はやはり男の子がほしかった。むかし流に言 えば、西山家の跡継ぎが誕生したわけで、内 心では猛烈に喜んだのである。 一九九五年。その五か月後の夏、突然短説 が降りて来て、続けざまに三作書いた。ちょ うどゼミの先輩の五十嵐正人さんが東葛座会 を主宰していたので、七年ぶりに短説の会に 復帰した。そしてその勢いで、五十嵐さんと 小説の同人雑誌『日&月』を出し始めたのだ ったが、それから三十年が経ったわけだ。 千葉県の柏市で開かれていた短説座会に、 東京の多摩地区から夫婦で参加していた。当 然、娘も息子も帯同していた。会場の県民プ ラザには環境問題を啓発するコーナーがあり、 ちょっと遊べるのだが、その情景が息子の幼 いころの記憶に残っているらしい。 幼稚園のころ、娘の誕生日に外食に行き、 駐車場の高い崖から落ちて、頭を打ち、耳か ら血が流れてきた時は、本当に、本当に肝が 冷えた。人生最大に生きた心地がしなかった。 その前後に交通事故にも遭っている。 その息子が、古典文学を研究する高校時代 からの彼女と結婚し、その研究拠点の京都に 移住した。そして昨秋、懐妊した。五か月の 腹帯の義も済ませたので、公表してもいいだ ろう。生まれてくるのは六月だという。 とにかく母子ともに健全に生まれてくるの を祈るばかりだ。僕の人生最後の目標ができ た。その子が二十歳になるのを見届けるぞ! |
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