短説「オートバイ」須藤京子
オートバイ 〔発表:平成3年(1991)1月第5回藤代座会/初出:「短説」1991年2月号/初刊:年鑑短説集〈5〉『螺旋の町』1992年4月/〈短説の会〉公式サイトupload:2009.2.3〕 Copyright (C) 1991-2011 SUDOH Kyoko. All
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オートバイ 〔発表:平成3年(1991)1月第5回藤代座会/初出:「短説」1991年2月号/初刊:年鑑短説集〈5〉『螺旋の町』1992年4月/〈短説の会〉公式サイトupload:2009.2.3〕 Copyright (C) 1991-2011 SUDOH Kyoko. All
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連 凧 〔発表:平成7年(1995)6月第16回東葛座会/初出:「短説」1995年9月号(短説創立10周年記念号)通巻122号/〈短説の会〉公式サイトupload:205.3.24〕 Copyright (C) 1995-2011 HIGAKI Hideyuki.
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夢おとこ 〔発表:平成5年(1993)5月第33回藤代日曜座会/初出:「短説」1993年7月号/ 初刊:年鑑短説集〈6〉『函中の函』1993年12月/〈短説の会〉公式サイトupload:2009.2.3〕 Copyright (C) 1993-2010 SAKAKI Masako. All
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性の読本 〔発表:平成4年(1992)6月第81回東京座会/初出:「短説」1992年8月号/初刊:年鑑短説集〈6〉『函中の函』1993年12月/WEB版初公開〕 Copyright (C) 1992-2010 ASHIHARA Shuji. All rights reserved.
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猫の絨毯 〔発表:平成7(1995)年2月第12回東葛座会/初出:1995年5月号「短説」/WEB版初公開〕 Copyright (C) 1995-2009 IGARASHI Masato.
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黒 曲 美野里 亜子 「親方、借りていいすか」 佐介は使いこまれて手になじみの良い曲尺 を持ち、親方亮吉の丸い背に声をかけた。 「まぁたおめぇは、人の道具で仕事すってか」 「なしてだが、わがんねぇけど、親方の借り っと、按配いいんだやね」 「親方、オラの方さも貸してくんねぇが」 今度は駒吉が墨壼を手に声をかける。 「おめぇら何持って仕事さ来てんだか。道具 は職人の命だべさ、んだけど良がったら使え ばいいべさ。なんぼでもな」 亮吉の道具箱は角がすり減って丸みをおび 黒光りしていた。手入れの行き届いた大工道 具がいつもきっちりと並べられている。やっ と墨付けが許されるようになった駒吉もまだ 自分の墨壺を持っていない。玄能、鋸ぎり、 鉋、曲尺、のみ。仕事を覚えるたびに道具の 数が増え、やっと大工らしくなってきた駒吉 だった。 「だども、親方みでに道具持ちになんねぇど いい仕事師になれねんだべな。駒兄ぃだって だんだん持ってけんど、オラなんてまだ釘袋 だけだ。早く自分の曲尺持ちてぇな」 「持ったってやっと一本だけだべさ、オラも」 駒吉は言いながら親方の腰の釘袋に目をや った。亮吉の腰にはいつも一本の黒曲が差し 込まれている。何十年も使いこまれてほとん どはげ落ち、角もすっかり丸くなっている。 肝心な目盛は大方消えて役立ちそうもない。 「数でねぇ……一本あればいい」 亮吉は黒曲を手に胡座をかいた。 「自分に合ったの一本でな……。大工が目盛 の無い曲尺持ってだって仕方ねぇと思うんだ べ。だどもやっと自分だけの目盛が読めるよ うになったんだ。こいつのおかげでやっとな」 黒曲はしっくりとごつい手になじんでいた。 *黒曲=くろがね(黒い曲尺) *曲尺=かねじゃく *玄能=げんのう *鉋=かんな 〔発表:平成5年(1993)3月第31回藤代日曜座会/初出:「短説」1993年5月号/初刊:年鑑短説集〈6〉『函中の函』1993年12月/*初刊稿は一行超越しているため、語句を二箇所削除し、句読点を三箇所付加しました。/〈短説の会〉公式サイトupload:2006.7.12〕 Copyright (C) 1993-2008 MInori ako. All rights
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ピンク鼻 錦織 利仁 懐中電灯を照らし、ふらふら出かけるのは やらねばならない義務だから、守は、少し遅 れはしたが、牛舎に着いた。 突然、産気づいたり、何かのトラブルに巻 き込まれている場合もあるが、この日は何事 もなかった。 ほし草の上で、後足をパカパカさせている 子牛がいる。守はこの牛を、誕生のときから 見てきた。他の牛と違って、鼻の色がピンク なのが特徴であった。ただそれだけで、他の 子牛とは別の感情で接していた。 夜回りのたびに、ピンク鼻をかまった。そ のうち、守をわかるようになった。 残念なことに、ピンク鼻は雄であった。農 場では、雄は肉牛として、いずれ売られてい く運命にあった。 ピンク鼻は、子牛舎から、少し大きな雄牛 だけの雑舎に移された。 守は、いつものように牛舎の掃除をしてい た。ふんにまみれたほし草をかたづけ、新し いほし草を敷く。突然、作業中の守の肩にの しかかる牛がいた。ピンク鼻だった。 「このバカタレが」 守は、げんこつで眉間をこづいた。 近くにいた獣医さんが、たいそう驚いた。 「きみたちは、ホモだちだね」 雌牛の種付けをするさい、牛の発情を見極 めるのに、牛が牛に背後から乗りかかるとい うのが、一つの目安になる。多くは乗りかか った牛、もしくは両方が発情している。 すぐには、肉にされはしないだろうが、ピ ンク鼻は、他の雄牛と一緒に業者に引き取ら れていった。 その日、蒔いておいたオクラの種が、プラ ンターの中で、二つ、三つピンクの殼を破っ て芽をふいているのを見つけた。 〔発表:平成7年(1995)6月東京座会/初出:「短説」1995年8月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2006.6.18〕 Copyright (C) 1995-2007 NISHIKIORI Toshihito.
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秋 霖 喜多村 蔦枝 むしゃくしゃした気持をしずめようと髪を 洗った。遠くでゴトゴト列車の音がする。 まだおさまらない。外へ出た。空缶を蹴る。 インスタントコーヒーか。壁にぶつかって止 まる。また蹴る。エノコロ草が抱きとめた。 踏切を渡ると一面の草っ原だった。牛の飼 料畑らしい。私を迫いかけて風が吹く。洗い 髪はまだ乾かない。 畑に入って大の字になった。疲れが出た。 灰色の雲。目をつぶる。ザワワワ、ザワワワ と草の音がする。それすら癩にさわる。 車が止まった。パタンとドアを閉める音。 誰だろう。こちらへ歩いてくるようだ。 起き上がった。と同時に義父の声がした。 「わあ、驚いた。死んどるかと思ったよ。あ っはっは」 〈大きなお世話〉と思ったが、隣へ坐るよう 促がした。黙っていた。義父も何も言わない。 しばらく遠くを見つめていた。何気なく足下 を見た。赤トンボが死んでいた。 「空があやしくなった。降りそうだ。わしゃ、 帰るよ。あんたは……ちょっとばかり、濡れ て帰るがいい。風邪をひかんようにな」 図星だ。 坐ったまま義父を見送った。背中が丸くな っている。 ひとつ屋根の下に住んでいれば、同じ釜の 飯を食えば、分かりあえるなんて嘘だ。 夫は気がつかないだろう。分かろうと努力 する者だけが感じることが出来る。 義父にはお見通しなんだ。 そう思った途端にこみあげてきた。涙の雨 がおしよせてくる。 分かってくれた男は老いぼれている。 それがまた口惜しい。 雨が静かに私の身体を濡らし始めた。 〔発表:平成6年(1994)12月第100回記念東京座会*「天」位選出作品/初出:「短説」1996年2月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.5.21〕
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息 子 栗原 道子 「決めてきたよ」 やっぱり、と春枝は思った。 「駅から徒歩六分、2K、家賃九万。格安物 件なんだって」 先日、啓の部屋に住宅情報誌があった。バ イト代を四十万円ためたとも話していた。 「上村君と一緒に住むから家賃は折半だけど。 いいかなあ?」 家から通えるのに。今だって学費はかなり 家計を圧迫している。バイトで補わせるとし ても寝具くらいは用意してやらねば…… 「下宿するチャンスは今だけなんだよ」 ん? でも一人っ子の啓が共同生活を体験 するのは悪いことではないだろう。 「父さんが承知したらね」と春枝は答えた。 和雄が帰宅したのは十時を過ぎていた。 「明日は早いぞ」とゴルフバックを車に積み 込むと、浴室に直行した。啓は書類を抱えて うろうろしている。賃貸契約の保証人になっ てもらわなければならないのだ。 「先に寝るよ」と和雄。追いかける啓。 二十分も経ったろうか。春枝は寝室を覗い た。暗がりで啓が正座して首を垂れている。 「そんなことを急に言うな、だって。それっ きりオヤジ寝たふりなんだ……」 涙声になっていた。 玄関扉が開閉する音を春枝は寝床で聞いた。 啓が自室に戻ったのはそのだいぶ後だった。 朝の太陽を浴びて車が光っている。磨き上 げられ、タイヤの下には水が溜っていた。一 月の深夜、気温はマイナスに近かったろう。 エンジンの音に、啓はとび起きた。 「お父さん、契約してもいい?」 「二十一歳の人間にダメだと言っても仕方な いだろう」それだけ言うと、荒っぽい運転で 角を曲がって行ってしまった。 〔発表:平成7年(1995)4月上尾座会/初出:「短説」1995年6月号/WEB版初公開〕 Copyright (C) 1995-2006 KURIHARA Michiko.
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出 口 向山 葉子 いつの間にか夜になっていた。車の振動に 身を任せながら外を見ると、空には満月。私 は一体どこに連れていかれるのだろう。 発端は多分あの一言だ。それは、娘の幼稚 園の母親たちが定期的にもつ茶話会の席のこ とだ。 「どうして町の外に行くことができないんで しょうねえ?」 なにげなく言ったのだったが、和やかだっ た場が一瞬凍りついた。隣にいたしいちゃん のママがぎこちない笑みを浮かべて言った。 「あなた、方向音痴だからよ」 それを機にもう何もなかったようにまた穏 やかなティータイムは続いた。 ああ、あの言葉は禁句だったのだ。この町 に来て七年。私は一度もうまく駅にたどりつ けたことがなかったが、なぜなのか考え続け るにはこの町はあたたかく、なだらかに時が 流れすぎるのだっだ。 茶話会から二日ばかりたった頃、警官が訪 ねてきた。銃刀法違反の疑いがあるとのこと で、任意同行を求められた。当然無実のはず だった。取り調べの警官は、この町の人間と おなじような親しげな微笑みを浮かべていた。 微笑みながら彼は言った。「あなたは確信犯 なので、このまま護送しなければならないの です。ああ、娘さんと息子さんのことはご心 配なさらなくていいですよ。この町のみんな で健やかに育てていきますから」 車は、町を抜けてどんどん遠ざかっていく。 運転手は無言のまま任務を遂行する。後頭部 と肩しか見えない。少し長めの髪の男性。小 刻みに震える肩。その肩に見覚えがあるよう な気がした。ずっと昔から知っている肩。誰 だったのかは思い出せないけれど、確かに知 っている背中なのだった。 〔発表:平成10(1995)年11月第21回東葛座会/初出:1996年2月号「短説」/再録:1996年7月「日&月」第2号/「西向の山」upload2002.5.25〕 Copyright (C) 1995-2005 MUKOUYAMA Yoko. All
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